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大阪地方裁判所 昭和23年(行)43号 判決 1948年12月21日

原告

淺津逹夫

被告

大阪市長

主文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負擔とする。

請求の趣旨

被告が原告に對し爲した昭和二十二年七月二十二日付懲戒免職處分及同年十月二十八日付休職處分を取消す。

事実

原告は昭和十六年一月大阪市臨時傭として採用せられ、昭和二十一年八月書記に任用せられたが昭和二十二年三月二十九日付にて同年四月一日より大阪市經濟局配給課檢度係に勤務替を命ぜられた。然し原告は技術的な服務は出來ないし、事務吏員たる原告に技術的服務を命ずることは原告等史員と被告との間に存在する勞働契約に違反するもので之を拒否したが、配給課長藤本元次郞は勤務替に不服があれば退職せよと稱し、事務の引繼ぎもないのに原告の勤務替を繼行し、之に從はないときは俸給の支拂を停止せんとしたので、原告は精神的、經濟的理由から著しく健康を害し、缺勤の止むなきに至つたが理由を具申して技術的服務の取消を求むると共に、俸給の請求、受領、宿直、選擧の應援事務等技術的服務に關係ない事務の爲めにのみ登廳又出張勤務以外は缺勤したが、同年六月十八日勞働組合の勸告に從ひ翌十九日から登廳し、同月三十日から農繁期の爲め缺勤屆を提出して約十日間缺勤した。すると同年七月十八日經濟局庶務課長監川駒三は原告に對し退職を求め原告が之を拒絶すると、同人は前記藤本及田上書記と共に原告に對し、「在職してもうだつが上らぬ意地でも馘にしてやる」等暴言を吐き、脅迫的態度を以て強迫し、勞働組合に對し、上司侮辱、職務放棄、無屆缺勤等を理由に原告の除名を求め、同組合は同月二十二日原告が組合員として組合の勸告に從はないとの理由で除名した。被告は經營協議會の議を經て同日原告を懲戒免職し、原告に其の旨の書面を送逹し原告は同月二十五日原告の出勤簿及事務用机が撒去せられ原告の俸給も計上せられていないことを確認した。然右懲戒處分は正當の手續を經ずして爲されたもので無効である。然るに經濟局庶務係長瀧川正〓は一方右處分の適法を主張しながら一方右處分の事實を否認し、原告に對し病氣診斷書提出に依る依願免職の手續を認め、若し之に應じないときは更に懲戒免職をとると言明し原告の父に迄原告を代理し退職願を提出すべき旨依賴し、原告に於てこれを拒絶するや被告は同年十二月十日に至り同年十月二十八日付休職處分辭令書を送逹し原告に休職を命ずる處分をした。然し前記懲戒免職處分は懲戒審査委員會の審議を經ないから無効であり又休職處分は(一)懲戒免職處分が存在するに拘らず、これを取消さずして爲された二重の處分であり(二)假に然らずとするも懲戒免職處分には一定の手續が必要であるからこれを避けこれと同じ目的を逹せんとして故意に爲されたものであり(三)一旦原告に對し懲戒免職にしたとの書面を送付し原告をして出勤不能にし又原告に對する勤務替の命令は前記の如く不當であるから缺勤したに拘らず缺勤を理由に爲された休職處分は不當である。以上の如く被告の爲した懲戒免職及休職の各處分に無効或は不當であるから之が取消を求めると陳述し、

證據として甲第一乃至五號證を提出し、證人監川駒三、瀧川正〓の證言を援用し乙第一、三號證は成立を認めるも乙第二號證の成立は不知と述べた。

被告代理人は主文と同旨の判決を求め、答辯として原告の主張事實中原告が昭和十六年一月大阪市臨時傭として採用せられ、昭和二十一年八月書記に任用せられ、昭和二十二年三月二十九日付にて同年四月一日より大阪市經濟局配給課檢度係に勤務替を命ぜられたこと並びに被告が昭和二十二年十月二十八日付にて原告に休職を命じたことは之を認めるが其の余の事實は否認する。被告は原告を懲戒免職處分にしたことはない。

原告は昭和二十年四月以來大阪市配給課第四係の係員として家庭用日用物資の配給事務を擔當してゐたが昭和二十二年一月頃から出勤状況、勤務成績共に極めて不良となり、配給事務に支障を生ずる虞があつたので前記の如く勤務替を命じたのであるが、原告は其の後二、三日出勤したのみで無屆缺勤を繼續し、數回に亘る上司の勸告を無視し職務の執行を怠つたので被告は市吏員分限規程第三條第一號(廢職又は事務の都合に因り必要なるとき)に因り正當な手續を經て原告に休職を命じたもので、元より適法である。從つて被告に於て爲したことのない懲戒免職處分は勿論、右休職處分の取消を求める原告の本訴請求は失當であると陳述し

證據として乙第一、二、三號證を提出し、證人監川駒三、瀧川正〓の各證言を援用し、甲第一、四號證の成立は不知其の余の甲號各號證の成立を認むと述べた。

當裁判所は職權を以て本人訊問をした。

理由

原告の主張事實中原告の大阪市に於ける勤務經歴、昭和二十二年三月二十九日附勤務替の事實並びに同年十月二十八日附休職處分の事實は被告の認めるところである。

原告は被告が同年七月二十二日附を以て爲した原告の懲戒免職處分は懲戒審査委員會の審議を經ていないから無効であると主張するが懲戒免職處分の事實は被告の否認するところであり證人監川駒三の證言並びに同證言に依りその成立を認め得る甲第一號證に依ると、原告の大阪市に於ける勤務状態が後記の如き事情であつたので當時商工課長であり人事關係の事務を擔當してゐた監川駒三より原告に對し同年七月二十二日附を以て同月二十五日迄に圓滿退職の爲め辭表の提出を求め若しこれに應じないときは市吏員分限規程により解職する旨の書面を送付したが元より之を以て原告を懲戒處分にしたものではないことが認められるから右事實を以て直ちに右處分のあつた證據とし難く他に原告主張の如き處分のあつた事實を認めるに足る證據がないから原告に對し懲戒免職處分がなかつたものと謂はねばならぬ。

仍て進んで休職處分に對する原告の主張を考察するに(一)の主張は右の如く懲戒處分が存在しないから理由がなく又(二)の主張に付ては、被告に於て前記の如く原告の進退に關し先づ原告に對し圓滿退職を求め原告が之に應じないときは市吏員分限規程に依り解職とする予定であつたことが認められるが、懲戒免職處分には一定の手續を必要とすので之を避け故意に休職處分を爲すに至つたことは之を認むるに足る證據がないから原告の主張は理由がない。

次に原告主張の(三)の理由に付案ずるに原告は右休職處分は原告を出勤不能にしたものであり又原告が缺勤するに付正當の理由があるに拘らず原告の缺勤を理由に爲された不當の處分であると主張するが被告が原告に對し送付した書面は懲戒免職處分に關するものでないことは前記認定の如くであり、他に原告に出勤を不能にした事實並びに右勤務替が不當であることは、これを認むるに足る證據がなく却て成立に爭のない乙第一號證、證人監川駒三、瀧川正〓の證言で其の成立を認め得る乙第二號證に依ると、原告は大阪市經濟局配給課第四係員として家庭用品の配給事務を擔當してゐたが、昭和二十二年一月頃より出勤状況惡く出勤するも終始私交上の來客の爲め席にあること少く配給事務に支障を來たすので、丁度檢度係よりの要望もあり原告の心氣一轉の爲め、前記の如く原告を同係に勤務替を命じたところ原告も氣持よく之を承諾してゐたに拘らず、同年四月一日より無屆缺勤を重ねるに至つたので同年七月十八日頃前記監川駒三、同年九月頃庶務係長瀧川正〓等に於て夫々原告に對し出勤を促し、若し退職の意思ならば圓滿退職すべきことを勸告し、又配給課長藤本元次郞、同僚吏員等に於ても之を見兼ね屡々原告に出勤を勸告したが、原告に於て依然缺勤を續け、同年七月十八日頃より引續き三月以上出勤しないので被告は同年十月二十八日法定の手續を經て大阪市吏員分限規程第三條第一號に依り原告に對し休職を命ずるに至つた事實を認定するに十分で、原告の本人訊問中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を覆すに足る證據がない。然らば存在しない懲戒處分の取消は勿論右休職處分の取消を求める原告の本訴請求は失當であるから之を棄却すべく訴訟費用の負擔に付民事訴訟法第八十九條を適用し主文の如く判決する。

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